
相続財産管理制度に関する令和3年度改正の主なポイント
1. 相続財産管理制度の改正
改正前の民法では、以下の各段階において相続財産の保存に必要な処分を行うことが規定されていました。
1.相続人が相続の承認または放棄をするまでの段階
2.限定承認がされた後の段階
3.相続放棄後、次順位の相続人が相続財産の管理を開始できるまでの段階
しかし、以下のケースについては明確な規定がありませんでした。
・共同相続人が単純承認したが、遺産分割前で遺産が共有状態にある場合
・相続人の有無が明らかでない場合の相続財産の保存
そこで、令和3年の法改正により、相続開始の段階を問わず、いつでも相続財産の管理人を選任し、相続財産の保存に必要な処分を行うことができる旨の規定(民法897条の2)が新設されました。
この改正により、以下の選択が可能となりました。
・清算を目的とする相続財産の管理
・清算を目的としない相続財産の管理人の選任
2. 名称の変更
清算を目的とする場合の相続財産管理人の名称が「相続財産管理人」から「相続財産生産人」に変更されました。
3. 公告手続きの変更
改正前の民法(民法952条1項)では、相続財産管理人が選任された場合、以下の手続きを経る必要がありました。
①家庭裁判所による相続財産管理人選任の公告(2カ月間)
②相続債権者・受遺者に対する請求申し出の公告(2カ月以上)
③相続権主張の催告の広告(6カ月以上)
令和3年の法改正により、相続財産清算人が選任された場合、家庭裁判所は直ちに以下の公告を行うこととされました。
・相続財産生産人の選任公告
・相続人・相続債権者・受遺者に対する公告
また、①及び③の広告が行われた場合、相続財産清算人はすべての相続債権者・受遺者に対し、2カ月以上の期間を定めて請求の申し出をすべき旨を公告する必要があります。 さらに、この期間は相続に関する公告の期間が終了するまでに満了することとされました。
この改正により、権利関係の確定に要する期間が従来の最短10カ月から最短6カ月に短縮されました。
4. 所有者不明土地管理制度の新設
改正前の制度では、所有者の相続人が不明な不動産のみを管理する場合でも、相続財産管理人を選任する必要がありました。この場合、管理人は相続財産全般を管理しなければならず、不要な事務負担や費用が発生する問題がありました。
令和3年の法改正により、所有者の相続人が不明である場合、特定の不動産のみの管理が必要な場合には、以下の管理人を選任できるようになりました。
・所有者不明土地管理人
・所有者不明建物管理人
また、所有者不明土地管理人・所有者不明建物管理人が選任された場合、対象となる土地・建物の管理処分権は専属的に管理人に帰属することとされました。 これにより、相続財産清算人が選任された場合でも、当該土地・建物についての管理処分権を持たないこととなります。
相続人不存在の場合の相続財産清算手続の特徴
相続人が不存在の場合、相続財産清算手続は以下のようなパターンに分類され、最終的に管理財産を皆無にすることで手続きが収束します。
1.債務超過型
2.特別縁故型
3.国庫帰属型
この手続きの運用では、以下の3点が重要となります。
1. パターンと到達点の設定
・具体的な案件ごとに、どのパターンに当てはまるかを決定。
・申立時の情報を基に、家庭裁判所が大まかなパターンを想定。
・清算人選任後、財産状況を報告した時点で最終的な到達点を決定。
2. パターンと到達点の共有
・家庭裁判所と相続財産清算人が決定したパターンと到達点を共有。
・初回の財産調査報告後、必要な作業工程を確認。
3. 到達点への目標時間の設定
・所要時間を見積もり、目標時間を設定。
・必要な準備を明確にし、手続きを円滑に進める。
相続人不存在の場合における相続財産清算の意義
被相続人に相続人がいる場合、相続人は相続開始の時から、被相続人の一身に専属するものを除き、被相続人の財産に属する一切の権利義務を承継します(民法第896条)。
これに対し、相続人が不存在の場合、相続財産を引き継ぐ者がいないため、財産は宙に浮いた状態となります。相続財産清算とは、被相続人に相続人がいないことが明らかでない場合に、家庭裁判所が利害関係人または検察官の申し立てによって相続財産管理人を選任し、家庭裁判所の監督のもとで相続財産を管理し、清算・消滅させるとともに、出現する可能性のある相続人の権利を保護し、最終的な帰属を決定する制度です(民法第951条~第959条)。
相続財産法人
① 成立
相続財産法人は相続開始時に成立し、設立手続きは不要です。ただし、対外的にその成立が明確になるのは、相続財産管理人が選任された時点となります。
② 消滅
相続財産法人が消滅し、相続財産管理人の代理権が消滅するのは、以下の場合です。
1.相続人が出現し、相続を承認した場合。
2.清算が終了し、相続財産がすべて消滅した場合。
ポイント
相続財産法人は、被相続人の権利義務を承継した相続人と同様の地位にあると考えられます。そのため、被相続人の生前に不動産を贈与された者に対する関係では、民法第177条の「第三者」には該当しません。
また、被相続人の生前に贈与以外の原因で不動産の所有権を取得した者や、その他の財産を取得した者に対しても同様に適用されます。
相続財産清算事件の手続きの流れ
1. 相続財産清算人選任審判
家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。
相続財産清算人の選任要件
1. 相続の開始
相続は死亡によって開始されるが、死亡の法的根拠となる原因には以下の3つがある。
(1) 自然的死亡
自然の経過による死亡。
(2) 失踪宣告による死亡
失踪宣告がなされた場合、一定の要件を満たせば相続財産清算人の選任が可能となる。
(3) 認定死亡
水難、火災、その他の事変によって死亡した場合、調査を行った官庁または関係機関が死亡地の市町村長や本籍地の市町村に死亡の報告を行う。これは「認定死亡」と呼ばれ、死亡の法的効果を生じる。ただし、高齢者職権消除は戸籍上の整理を目的とした行政措置であり、死亡の法的効果を生じないため、相続の開始原因とはならない。したがって、この場合は不在者財産管理人の選任や失踪宣告を経て相続財産清算人の選任を行う必要がある。
2. 相続財産の存在
(1) 相続財産清算制度の目的
本制度は、相続人が存在しない場合に、相続財産を債権者や受遺者に弁済し、残余があれば特別縁故者に分与し、それでも余剰がある場合は国庫に帰属させることを目的とする。そのため、相続財産の存在が前提となる。
(2) 相続財産の範囲
相続財産法人は、相続人が不存在の場合に、本来相続人が承継すべき財産を法人化したものであり、相続人がいれば承継される権利義務を含む。ただし、被相続人の一身専属権は含まれない(民法第896条)。
(3) 極めて少額の相続財産
相続財産が極めて少額(例:預貯金5万円程度、借家内の家具や古衣類のみ等)の場合、清算人を選任する実益がないと考えられる。清算に必要な費用(広報広告費、財産調査費、清算人報酬等)を賄うだけの財産が必要となる。
(4) 消極財産のみの相続財産
相続財産が消極財産(負債)のみである場合も相続財産法人は成立するが、清算すべき財産がないため清算人を選任する実益は少ない。ただし、相続財産法人に登記義務がある場合(例:被相続人が第三者の不動産に設定した抵当権の抹消義務が残るケース)には、清算人を選任する実益がある。
3. 相続人の存在が明らかでないこと
(1) 相続人の存否不明(民法第951条)
相続人の有無が不明な場合を指す。ただし、相続人が1人でもいれば、他の相続人の有無が不明でも「相続人の存否不明」とはならない。
(2) 基準時
相続人の存否不明の基準時は相続開始時とされる。
(3) 相続人の存否不明の具体例
・戸籍上相続人が存在しない場合。
・最終順位の相続人が相続放棄をしている場合。
・最終順位の相続人が相続欠格で資格を喪失し、かつその相続人が存在しない場合。
・同時死亡の推定が働く場合。
4. 特殊なケース
(1) 表見相続人が存在する場合
表見相続人とは、実際には相続人でないが、戸籍上相続人であるように見える者を指す(例:婚姻無効自由がある者)。この場合、訴訟により相続権が否定されるか、戸籍訂正が行われない限り、相続人の存否不明とはならず、清算人の選任はできない。
(2) 相続人が出現する可能性がある場合
認知の訴えや父を定める訴え等の人事訴訟が係争中である場合、相続人が出現する可能性がある。しかし、相続開始時点で存否不明と判断されるため、相続財産法人は成立し、清算手続きを進めることが可能とされる。
(3) 相続人の生死または所在が不明な場合
この場合、相続人不存在とはならず、不在者財産管理人の選任や失踪宣告が必要となる。例えば、戦前に旧樺太に渡り、本籍地も旧樺太に移したため戸籍謄本が取得できず、戸籍が追えない者もこのケースに該当する。
(4) 高齢者職権消除が行われている場合
高齢者職権消除は死亡の法的効果を生じさせるものではないため、この場合も相続人不存在とはならず、不在者財産管理人の選任や失踪宣告を経る必要がある。
申し立て必要書類 (事案により別途、追加の例があります)
- 申立書 1 通 家事審判申立書(PDF:112KB)
記入例(相続財産清算人選任) (PDF:244KB)
- 被相続人の出生時から死亡時までの連続するすべての戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本を含む)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票(戸籍附票の場合、被相続人の死亡日が令和4年1月10日以前のときは本籍の記載があるもの)
- 被相続人の父母の出生時から死亡時までの連続するすべての戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本を含む)
- 被相続人の直系相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本を含む)
- 財産目録 土地財産目録(PDF:29KB)建物財産目録(PDF:33KB)現金・預貯金・株式等財産目録 (PDF:28KB)
- 財産目録に記載した財産の内容を証する資料(不動産登記事項証明書、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳の写しまたは残高証明書等))
- 申立人において、被相続人との関係での利害関係を証する資料(賃貸借契約書の写し、金銭消費貸借契約書の写しなど。申立人と被相続人が親族関係の場合には戸籍謄本(全部事項証明書))
- 相続関係図
- 相続人全員の相続放棄受理証明書(相続人全員が相続放棄をした場合)
説明(PDF:149KB)申請書(PDF:69KB)
記載例(PDF:123KB)
- 申立人が法人の場合、資格証明書
- 被相続人の子(及びその代襲相続人)で死亡している者がいる場合、その子(及びその代襲相続人)の出生時から死亡時までの連続するすべての戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本を含む)
- 被相続人の兄弟姉妹で死亡している者がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までの連続するすべての戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本を含む)
- 代襲相続人として甥または姪がいる場合、その甥または姪の死亡の記載がある戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本を含む)
※ 戸籍謄本は原則として本籍を管轄する市町村役場で3ヶ月以内に発行されたものを提出する必要があります。
清算費用
相続財産の調査、財産目録の作成、財産状況の管理計算、登記手続きに要した費用、官報公告に要した費用、相続人清算人の報酬などは相続財産の中から支弁する。
清算費用の予納について
清算費用の予納について
清算費用の予納が必要となるのは、相続財産の内容から判断して、相続財産清算人の報酬を含む清算費用の財源が見込めない場合です。清算費用の財源が見込めない具体的なケースとしては、以下のような場合が挙げられます。
・相続財産に現金や預貯金などの流動資産が含まれていない場合
・残された財産が担保権の設定された不動産のみである場合
・担保権の設定されていない不動産や預貯金が存在するものの、金融機関からの借入があり、相殺されてしまう場合
・不動産の共有部分しかない場合
・相続財産が不動産のみであり、時効取得などの理由により第三者が所有権を取得する可能性がある場合
なお、申し立ての段階では判明していなかった預貯金が管理途中で発見されたり、担保権の設定されていない不動産を売却することで相続財産清算人の報酬を含む清算費用の財源を確保できた場合には、清算終了前の段階で事案に応じて余剰金を還付するのが実務の取り扱いとなっています。
東京家庭裁判所では、原則として申し立て人に対し100万円の予納を求めていますが、事案によってはこの金額が変更される場合もあります。
相続財産清算人候補者選任について
不在者財産管理事件とは異なり、相続財産清算事件においては、相続人、債権者、受遺者に対する弁済、財産の換価処分、特別縁故者に対する相続財産分与の手続き、国庫帰属手続き等を職務として行うため、高度な法的知識や経験が求められます。したがって、そのような専門的な知識・経験を有する者を相続財産清算人として選任することが、選任後の手続きを適正かつ迅速に進める観点から望ましいといえます。
相続財産清算人の選任方法には、申立人が推薦する者を選任する「申立人推薦方式」と、家庭裁判所が公平中立な立場にある第三者を選任する「裁判所選定方式」がありますが、以下の理由から「裁判所選定方式」が望ましいと考えられます。
利害関係の懸念
申立人は相続人、債権者、または特別援護者を主張する者など、相続財産の管理・清算について何らかの利害関係を有している場合が多いため、申立人の推薦によって選任された相続財産清算人が、申立人の利害とは無関係に、相続財産法人のために適正に職務を行うか疑問が残ります。
家庭裁判所との連携
相続財産清算事件の適正かつ迅速な処理には、家庭裁判所と相続財産清算人の緊密な連携が必要です。しかし、申立人の推薦により選任された相続財産清算人は、申立人の利益のみを優先し、家庭裁判所の指導・監督に従わない可能性があるため、手続きの適正性が損なわれる懸念があります。
清算人の適格性
相続財産清算人としては、高度な法的知識や経験を有する者を選任することが、適正かつ迅速な手続きを進めるために望ましいといえます。しかし、申立人が推薦する候補者が必ずしもそのような知識・経験を有しているとは限らず、適格性に疑義が生じる可能性があります。
以上の理由から、相続財産清算人の選任においては、裁判所が公平中立な立場から適切な人材を選定する「裁判所選定方式」が望ましいと考えられています。
相続財産清算人選任の審理
相続財産清算人を選任する際、裁判所の審理において具体的に確認される主な事項は以下のとおりです。
①管轄および利害関係の有無
②相続の開始の事実
③相続人不存在の事実
上記 ②相続の開始 および ③相続人不存在 については、戸籍謄本を確認し、相続関係図を作成・点検することで審理が行われます。相続人が相続放棄している場合には、相続放棄受理証明書 や 相続放棄の事件記録 などを通じて、相続放棄の事実の有無を確認します。
④相続財産の存在
⑤清算人候補者の適格性
関係官署に対する調査嘱託については、例えば預貯金の存在は確認できるものの、申立人の調査のみでは残高が不明な場合、金融機関に対して調査嘱託 を行うことがあります。この調査嘱託は、申立人に対して清算費用の予納を求めるかどうかの判断資料を得るためにも有用とされています。
また、提出書類だけでは利害関係の有無 や 清算人の選任要件 の存否が不明な場合、書面照会 や 電話照会 が行われることがあります。さらに、申立人が推薦する清算人候補者を相続財産清算人に選任する庁では、当該清算人候補者や申立人に対し、書面照会 を実施することもあります。
これらの審査を経て、適切な相続財産清算人が審理されることとなります。
相続財産清算人の審判について
相続財産清算人の審判には、以下の二種類があります。
① 認容審判(清算人選任の審判)
審理の結果、申立人の利害関係性 や 清算人の選任要件 などが認められた場合、家庭裁判所は相続財産清算人の選任審判を行います。
相続財産の中に不動産 が含まれる場合、その不動産は相続財産法人 名義で登記されることになります。この際、民法第952条第1項 に基づく文言が審判書に明記されることで、登記官は相続人が不存在であるために相続財産清算人が選任されたことを確認することができます。
② 却下審判
申立人の利害関係や清算人の選任要件が認められない場合、家庭裁判所は申し立て却下の審判 を行います。
注意点として、民法第952条第1項では「相続財産清算人を選任しなければならない」と規定されていますが、相続財産清算人選任の申立事件は家事審判事件 であり、通常の審判事件と同様に、家庭裁判所は事実審理 を行った上で、相続財産清算人を選任するかどうかを判断します。そのため、家庭裁判所が相続財産清算人を選任する必要性がないと判断した場合には、申し立ては却下されることになります。
却審判が下された場合、申立人および相続財産清算人に対して、審判書謄本が普通郵便で送付され、告知されます。
審判後の対応
家庭裁判所は、認容審判がなされた場合、審判書謄本に加えて、以下の参考資料を提供します。
・相続財産清算人の職務内容をまとめた説明書
・清算報告書の提出に関する説明書
・財産目録および清算計画一覧表の記載例
これらは相続財産清算人が職務を遂行する上での指針となります。
不服申し立てについて
認容審判および却下審判のいずれについても、不服申し立てを行うことはできません。
相続財産清算人の人数について
相続財産清算人は必ずしも1名である必要はなく、複数名を選任することも可能 です。しかし、実務において複数名を選任する例は少ないのが現状です。
また、最初に1名の相続財産清算人を選任する認容審判がなされた後に、追加で新たな相続財産清算人を選任することも可能 と解されています。
2. 相続財産清算人の選任及び相続人探索の公告
清算人の選任が公告され、相続人の有無を探索します。
1. 家庭裁判所による公告義務(民法第952条第2項)
相続財産清算人が選任された後、家庭裁判所は遅滞なく、相続財産清算人の選任および、相続人が存在する場合には、一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければなりません(民法第952条第2項)。
この公告は、特別な定めがある場合を除き、裁判所の掲示板や裁判所内の見やすい場所に掲示するとともに、官報に掲載する方法で行われます。令和3年の法改正により、それまで別の機会に行われていた相続権主張の最終公告(相続人不存在の公告)については、相続財産清算人の選任公告と同時に行うこととされました。
2. 官報について
官報とは、法令その他の重要事項を広く周知させるために、独立行政法人国立印刷局が発行する国の公的な刊行物です。家庭裁判所の事件においては、相続財産清算事件のほか、失踪宣告事件や不在者財産管理人事件における供託手続きなどでも利用されます。
官報は、全国の官報販売所で販売されているほか、国立国会図書館などの大規模な図書館で閲覧可能です。また、直近90日間分の官報はインターネットでも閲覧することができます。
3. 選任公告の目的と手続き
選任公告の目的は、相続財産に利害関係を有する者に対し、相続財産清算人との連絡の機会を与えることに加え、相続人の不存在を確認するための役割も持っています。
公告の手続きは、以下のように行われます。
相続財産清算人の選任公告および相続人不存在の公告のための官報用原稿を3通作成する。
1通に裁判官が認印を押印し、もう1通を家庭裁判所の掲示板に掲示する。
残りの1通を独立行政法人国立印刷局に送付し、官報への掲載を依頼する。
公告が官報に掲載されると、官報販売所から官報広告料の請求書とともに、掲載された広告の写しが家庭裁判所に送付されます。その後、家庭裁判所は相続財産清算人に対し、官報掲載日などを記載した通知書を送付する運用となっています。
4. 広告掲載料および費用負担
公告の掲載料は一律5,075円です。この費用は、
手続き費用として申立人が負担する場合
相続財産清算人が相続財産から支払う場合
の2通りの扱いがあります。
5. 広告の記載内容
官報に掲載する公告には、以下の事項を記載します。
・申立人の氏名または名称および住所
・被相続人の氏名、職業および最後の住所
・被相続人の死亡場所および死亡年月日
・相続財産清算人の氏名または名称および住所
・相続権利の申し出をすべき旨
・被相続人の本籍
以上が、相続財産清算人の選任後に行われる公告の手続きとその詳細です。
3. 債権者・受遺者への請求申出の公告及び催告
債権者や受遺者に対し、一定期間内に請求を申し出るよう公告・催告を行います。
相続人捜索の公告
相続人捜索の広告について
相続人捜索の広告は、相続財産清算人の選任公告と同時に行われる手続きです。この公告の目的は、相続人の探索を行うとともに、広告期間内に申し出のなかった相続人や相続債権者、受遺者の権利行使を制限することで、特別縁故者に対する相続財産の分与や国庫帰属の対象となる財産を確定することにあります。
公告の方法
家庭裁判所は、相続財産清算人の選任公告と同時に、裁判所の掲示板やその他の見やすい場所に掲示し、さらに官報にも掲載することで公告を行います。公告期間は6か月を下回ることができません。
申し出の方法
公告期間内に相続人であることを申し出る場合、官報を掲載した家庭裁判所に対して行います。明文規定はありませんが、書面で行い、相続人であることを証明する資料を添付するのが適当です。家庭裁判所は、明白に不適法な主張でない限り、相続人の申し出を受理しなければなりません。
相続人の判断
相続人であるか否かの判断は、まず相続財産清算人が行い、最終的には訴訟により確定します。相続権の確認訴訟の被告については、検察官とする見解と相続財産清算人とする見解に分かれていますが、昭和56年10月30日の判例では、改正前の相続財産管理人が被告となった事例があります。
相続人出現の効果
相続人が出現し、相続を承認した場合、相続財産法人は初めから存在しなかったものとみなされます。ただし、相続財産清算人がその権限内で行った行為の効力は妨げられません。また、相続財産清算人の代理権は、相続人が相続を承認したときに消滅します。
相続財産の引き継ぎ
相続人が出現し、相続を承認した場合、相続財産清算人は遅滞なく清算に係る計算を行い、現存する相続財産を相続人に引き渡す義務を負います。
相続債権者・受遺者の請求
公告期間内に請求の申し出をしなかった相続債権者や受遺者は、残余財産からの弁済を受けることができなくなります。ただし、広告期間内に相続財産清算人に対し請求の申し出を行った場合は、残余財産から弁済を受けることが可能です。
相続人捜索期間満了の効果
公告期間内に相続人としての権利を主張する者がいない場合、相続権が消滅し(民法958条)、相続人の不存在が確定します。しかし、公告期間内に申し出をしていれば、相続財産清算人の判断が未確定であったり、相続権確認訴訟が継続している場合でも、相続権が消滅することはありません。
注意点
相続人捜索の公告期間内に申し出をしなかった者は、特別縁故者に対する分与の残余財産についても相続権を主張することは許されません。ただし、戸籍上、相続人の存在が当初から明らかであり、民法951条の要件を欠くにもかかわらず、相続財産清算人が選任され、公告期間が満了してしまった場合には、相続権の消滅の効果は生じないと解されます。
相続債権者・受遺者の権利消滅
公告期間内に相続財産清算人に対し請求申し出をしなかった相続債権者や受遺者の権利は消滅します。ただし、消滅する権利は、弁済によって消滅する権利に限られ、相続財産上の担保権などは例外的に存続することがあります。
消滅しない権利
相続財産上の賃借権は対抗要件を備えていれば、特別縁故者や国に対してもその権利を主張することができます。また、商標権については、専用使用権や通常使用権が存在する場合、公告期間内に相続人が出現しなくても消滅しないと解されます。
4. 初回報告の提出
清算人が家庭裁判所に財産状況や手続きの進捗を報告します。
5. 債権者・受遺者への請求申出期間の満了
申出期間が終了し、提出された請求内容を整理します。
6. 相続人探索の公告期間満了
相続人の有無を確認する公告期間が終了します。
7. 特別縁故者に対する相続財産分与の申立て
相続人がいない場合、特別縁故者が相続財産の分与を申し立てることができます。
8. 特別縁故者に対する相続財産分与の申立て期間の終了
特別縁故者による財産分与の申立てができる期間が終了します。
9. 報酬付与審判の申立て(報告書提出含む)
清算人の報酬や清算費用は相続財産から支出され、家庭裁判所が審査を行います。
相続財産清算人から報酬付与を求める旨の申立てを受けた場合、家庭裁判所は報酬付与の審判を行い、相続財産清算人はその審判により定められた額の報酬を受け取ることになります。
相続財産清算人が死亡した場合、その相続人は、それぞれの相続分に基づいて報酬付与審判の申立てをすることができます。また、報酬付与審判の申立て後に清算人が死亡した場合は、相続人が受け継ぎの手続きを行うことが可能です。
報酬の決定にあたり、家庭裁判所は以下の諸事情を考慮して判断を行います。
- 管理行為の具体的内容
- 管理する財産の種類、数、額、収益状況
- 管理期間
- 清算事務の処理経過および清算の難易度
- 清算業務に必要とされた専門技術の質
- 訴訟・調停・示談の有無とその内容
- 単価・金額・精算金額・残余財産の状況
- 清算人の職業等
報酬付与の審判は、清算業務が終了する直前に行われるのが通常ですが、残余財産が国庫に帰属する事案では、国庫帰属の手続きを取る前の段階で報酬付与の審判を行う必要があります。また、清算期間が長期にわたる場合には、途中で一部報酬の審判を行うこともあり、その場合は「いつからいつまでの期間の報酬であるか」が明示されます。
報酬の支弁方法について
報酬が相続財産から支払われる場合、審判の主文には「被相続人〇〇の相続財産の中から支弁する」と明記されます。しかし、相続財産のみでは報酬を支払うことができない場合や、積極財産が形成されず相続財産から報酬を全く支弁できない場合には、予納金から報酬を支払うことがあるため、その場合は主文に「相続財産の中から」という文言は含まれません。
注意点
特に、残余財産が国庫に帰属する事案では、一度国庫帰属の手続きを行うと、その財産を相続財産に戻すことはできなくなります。そのため、相続財産清算人および家庭裁判所は、報酬付与審判を行う前に記録を精査し、以下の点を確認することが適当です。
- 相続債権者・受遺者への弁済が完了しているか
- 特別援護者に対する財産分与が済んでいるか
このように、報酬付与審判の前には、適切な確認を行った上で手続きを進めることが求められます。
10. 国庫帰属手続き
残余財産を換価し、清算報告書を家庭裁判所に提出した上で、国庫に帰属させます。
11. 選任処分取消し申立て
清算手続き完了後、家庭裁判所に選任処分取消しの申立てを行います。