
1. 特別縁故者制度の概要
- 制度趣旨: 民法958条の3に基づき、被相続人に法定相続人がいない場合、特別の縁故がある者に裁判所の裁量で相続財産を分与する制度。
- 判断基準:
- 特別の縁故の有無
- 被相続人との関係の濃密さ
- 被相続人の推定的意思
- 財産形成・維持への寄与
2. 主要な判例分析
2.1 広島高裁平成15年3月28日決定
- 事案の概要:
- 相続財産: 土地建物(約700万円)および預金(約4200万円)。
- 当事者:
- 療養介護に尽くした配偶者の兄弟
- 資産管理に尽力した従兄弟
- 家庭裁判所の判断:
- 療養介護者に2600万円
- 資産管理者に土地建物を含む2300万円。
- 高裁の判断:
- 療養介護の方が濃密な縁故関係と判断。
- 分配割合: 療養介護者7割(預金)、資産管理者3割(その他資産)。
2.2 大阪高裁平成20年10月24日決定
- 事案の概要:
- 被相続人の父の妹の孫とその配偶者が申立人。
- 被相続人の療養看護や財産管理に尽力し葬儀を主催。
- 相続財産約6000万円のうち、各500万円の分与を認定。
- 判断基準:
- 成年後見人の一般的職務を超える親密な関係。
- 遠距離からの頻繁な訪問や金銭的負担。
2.3 鳥取家庭裁判所平成20年10月20日審判
- 事案の概要:
- 老人ホームの身元引受人となった従兄弟の配偶者が申立人。
- 相続財産約2500万円のうち600万円の分与を認定。
- 重要ポイント:
- 短期間でも身辺監護を行い、任意後見契約を締結。
- 墓守や葬儀対応の継続的な貢献。
2.4 仙台高裁平成15年11月28日決定
- 事案の概要:
- 遺産約4000万円の分与。
- 特別縁故者として認められた者:
- 長期間不動産を管理し最後まで介護した叔母。
- 幼少時から親密な交際を続けた義理の従兄弟。
- 自宅をアトリエとして提供した叔母。
- 分配方法:
- 不動産を現金化して分与。
- 被相続人の推定的意思を重視。
3. 特別縁故者として認められる要件
- 被相続人との親密な関係。
- 被相続人への療養介護や財産管理への貢献。
- 相続財産形成・維持への関与。
- 被相続人の意思表示(遺言書やメモ書きがあれば判断の補強材料となる)。
4. 分与の判断基準
- 縁故の濃密さ:
- 療養介護は財産管理より濃密とされる傾向。
- 被相続人の推定的意思:
- 明確な意思表示がない場合でも、間接的な証拠(行動・言動など)を重視。
- 公平性の確保:
- 寄与度や関係の実態に基づき裁判所が裁量で決定。
5. まとめ
- 特別縁故者の財産分与は、被相続人との関係や貢献内容を具体的に証明し、裁判所の判断を仰ぐことで決まる。
- 療養介護や身元引受人など、財産管理以上に被相続人の生活に深く関与した者が、より高い割合で分与を受ける傾向がある。
- 重要なアプローチ: 事実関係を詳細に説明し、被相続人の推定的意思や公平性を裁判所に説得的に示すことが必要。