こんにちは、亀田行政書士事務所です。本日は、農業経理における特有の資産勘定科目と経理処理について解説いたします。農業経営には、一般の事業には見られない「生物」や「繰延生物」などの勘定科目が存在し、それらの減価償却や資産計上の方法も特有のルールが適用されます。以下では、これらの農業特有の経理処理について詳しくご説明します。
なお、亀田行政書士事務所では税務に関する詳細な助言を行っておりませんので、具体的な税務処理については顧問税理士などの専門家にご相談ください。
1. 農業特有の資産勘定科目
(1) 生物
「生物」とは、果樹などの永年性作物や繁殖用家畜などが該当します。税法上、減価償却資産として認められているものは、耐用年数に関する省令別表四に掲げられており、限られた資産のみが減価償却の対象となります。果樹や繁殖用家畜のほか、一定の条件を満たす植物や動物も対象です。(国税庁HP下部にございます)
(2) 繰延生物
「繰延生物」は、別表四に掲げられていない生物を指します。例えば、ばらの親株や採卵用鶏がこれに該当し、資産計上の上で償却を行いますが、この場合、税法上の繰延資産として扱われます。「繰延生物」として表示し、通常の減価償却資産とは異なる処理が行われます。
2. 生物と繰延生物の減価償却
減価償却資産は、通常は事業に供した時点から減価償却を開始しますが、「生物」に関しては少し異なります。生物の減価償却は、当該生物が成熟した時点から開始されることに注意が必要です。
(1) 生物の成熟時点
- 乳牛の場合:初産分娩時が成熟の時点となります。
- 乳牛以外の繁殖用家畜の場合:初産のための種付時が成熟とみなされます。
- 果樹などの場合:樹齢が収支相償うと認められる時期、つまり償却額を含めて収益が見込まれる時点が成熟とされます。多くの場合、通達などを参考にしてこの時期を判断します。
(2) 減価償却累計額の表示方法
- 生物の減価償却累計額は、有形固定資産の中の「減価償却累計額」勘定として、控除形式で表示することが原則です(間接法)。
- 繰延生物の場合は、減価償却資産ではなく繰延資産として扱われるため、繰延生物の金額から直接控除し、その控除残高を繰延生物の金額として表示します(直接法)。
3. 育成仮勘定について
「育成仮勘定」とは、自己が成育・成熟させた生物(自己育成)の取得価額を集計するために用いられる勘定科目です。自己育成した生物の取得価額には、購入代価や種付費、出産費、種苗費に加え、成育・成熟のために要した飼料費や肥料費、労務費、その他経費が含まれます。
(1) 育成仮勘定の使用方法
自己育成した生物の取得価額を集計するため、棚卸資産である農畜産物の取得費用と育成に要した費用を共通の費用勘定で経理し、期中の決算整理で育成仮勘定に振り替えます。
- 期中に成熟した生物については、成熟日に育成仮勘定から「生物」勘定に振り替えます。
(2) 経理上の仕訳例題
A.前期育成仮勘定残高は540,000円
B.当期の繁殖牛育成に要した飼料費は210,000であり、後日支払うこととした
C.従来から育成を行っていた繁殖牛が成熟期を迎え、繁殖活動を行った。
D.決算につき、当期の育成中の牛馬の育成費は、総額で320,000円であった。(Cの育成費を除く)
E.決算につき、減価償却費を320,000円計上したなお、記帳方法は直接法による。
育成仮勘定
期首繰越高 | 540,000 | 生物 | 360,000 |
育成費振替高 | 320,000 | 期末繰越高 | 500,000 |
860,000 | 860,000 |
生物
期首繰越高 | 1,150,000 | 減価償却費 | 320,000 |
育成仮勘定 | 360,000 | 期末繰越高 | 1,285,000 |
育成費振替高 | 95,000 | / | |
1,605,000 | 1,605,000 |
(3) 貸借対照表での表示
「育成仮勘定」は、貸借対照表の「有形固定資産」に区分されます。また、製造原価報告書では「育成費振替高」が末尾に控除形式で表示されます。
(4) 育成費の振替え
イメージ方法としては、費用をそのまま計上すると、利益が正しく算出されないことになるため、便宜上、一度費用をマイナスして、費用を資産として計上し、その後決算処理をします。
決算後、育成が完成した際、資産計上した育成仮勘定と、育成費に振り替えていた費用を生物として資産化します。
飼料費→育成仮勘定としたいところですが、貸借のバランス上できないため、育成費振替高という便宜上の袋を用意して、生物が大きくなるまで、それにまとめて詰め込み、費用をマイナスし、育成仮勘定に振り替えます。
おわりに
農業における経理は、特有の資産勘定科目や減価償却のルールが存在し、通常の経理処理とは異なる点が多々あります。本記事では、基本的な内容をお伝えしましたが、具体的な税務処理や詳細な内容については、顧問税理士などの専門家に必ずご確認ください。亀田行政書士事務所は、農業経理に関する情報発信を行っておりますので、何かご不明点がございましたらお気軽にご相談ください。
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