
- 第1回:生成AIで作成された契約書のリスクと法的基礎
- 第2回:契約書の基本構成と押印、印紙の取り扱いについて
- 第3回:契約書の読み方、どこをチェックすべきか
- 第4回:事例集① 土地建物売買契約書
契約書解説:第3条 境界の明示および確定測量の作成について
民法第223条では、土地の所有者は隣地の所有者と共同の費用で境界線を設けることができると定められています。また、第224条では、境界線の設置およびその保存にかかる費用は、原則として相隣者が等しい割合で負担し、ただし測量費については土地の広狭に応じて負担する旨が定められています。
しかし実務上は、隣地所有者の協力が得られず、境界標の設置やブロック塀等の境界構造物の設置について同意が得られないことが少なくありません。隣地所有者の理解や合意が得られなければ、ブロック等を共有地に設置することも難しく、そのため購入者が境界線より内側に構造物を設けるといった対応を取る例が多く見受けられます。
測量についても同様で、実際には隣地所有者が費用の一部を負担してくれるケースは少なく、結果として売主側の負担で確定測量を行うことが一般的です。本契約条項では、こうした実務の現実を踏まえ、売主が責任と費用負担をもって確定測量および境界の明示を行うことを定めています。
契約書解説:第4条 売買対象面積について
土地の実測面積と登記簿上の面積が異なることは、土地売買ではよくあることです。この違いにどう対応するかによって、「公簿売買」と「実測売買」に分けられます。
「公簿売買」は登記簿面積を基準とし、実測と異なっても代金の精算は行わない契約形態です。一方で「実測売買」は実際に測量した面積に応じて代金を精算する契約で、より公平ではありますが、確定測量費用が高額になる場合もあり、事前の判断が重要です。
本条項では、実測面積と登記面積に差異があった場合には、1㎡あたりいくらという定めに基づいて精算を行う旨を規定し、売主側には地積更正登記義務がないことを明示しています。これは実務上、地積更正登記が費用・手間の点で困難な場面も多いため、契約上のトラブル回避として有効です。
契約書解説:第5条 手付金について
よく「手付け倍返し」という言い方がされますが、これは正確な表現ではありません。契約の解除を希望する当事者は、買主であれば支払った手付金を放棄し、売主であれば受け取った手付金の倍額を返還することで、契約を解除できるというのが正しい理解です。
つまり、買主が手付金を支払った後に解除を希望する場合は、その手付金を放棄すればよく、売主が解除する場合には、買主から受け取った手付金と同額を上乗せして返金する必要があります。
手付金は契約成立と同時に買主から売主へ支払われるのが原則ですが、合意があれば「手付金なし」という形式も可能です。しかし、手付金なし契約の場合は、契約解除が一方的にはできず、相手方の合意が必要になるため、買主にとって一概に有利とはいえません。
契約書解説:第7条 所有権の移転について
民法第176条では、「物権の設定および移転は、当事者の意思表示のみによってその効力を生ずる」とされています。つまり、売主と買主の合意があれば、それだけで所有権は移転すると解されます。
しかし、実務では「売買代金が全額支払われたこと」を所有権移転の条件とするのが一般的です。これは、契約締結時点では手付金しか支払われていないことが多く、全額未回収の状態で所有権を移すと、売主にとって大きなリスクとなるためです。
そのため本条では、売買代金の全額が支払われ、売主がこれを受領した時点で所有権が買主に移転することを明確にしています。
契約書解説:第8条 引渡しの時期と方法について
不動産の売買契約において、「引渡し日」は非常に重要なポイントです。なぜなら、実際に買主が物件を使用・収益できるようになるのは、引渡しを受けてからだからです。
引渡しは、通常「売買代金の全額支払いと同時」に行われます。売主にとっては、代金が未払いのまま物件を明け渡すのはリスクがあるため、実務でもこの同時履行の原則が強く意識されます。
また、土地の引渡しといっても物理的な「鍵の受け渡し」のようなものがないため、実務では「現地立会い」のもとで境界標の確認や現況の確認を行い、「買主が自由に使用できる状態になったかどうか」を確認して引渡し完了とみなすのが一般的です。本条では、このような実務を前提に、引渡しのタイミングと方法を明記しています。
契約書解説:第9条 公租公課等の精算について
土地にかかる固定資産税や都市計画税などの公租公課は、原則としてその年の1月1日時点での所有者に課税されます。しかし、売買によって年の途中で所有権が移転する場合、買主と売主で公平に負担する必要があります。
そのため、本条では「引渡し日」を基準日として、公租公課を日割り計算で精算する旨を定めています。これにより、たとえば4月1日に引渡された場合は、1月1日から3月31日までを売主負担、4月1日から12月31日までを買主負担とする計算が可能になります。
なお、実際の納税通知書が届くのは多くの場合5月以降であるため、精算額は「前年実績に基づく概算」で一旦取り決めることが多く、後日実額との差異があれば再精算する旨を特約で定めることもあります。
契約書解説:第10条 移転登記の手続について
不動産売買における所有権移転登記は、買主の権利保護にとって極めて重要です。登記は第三者に対して自らの権利を主張する(対抗する)ために不可欠な制度だからです(民法第177条)。
売主が所有権を買主に移転する意思があっても、登記がなされていないと、第三者に対してその効力を主張することができません。たとえば、登記のない状態で売主が二重譲渡を行った場合、先に登記を備えた側が所有権を取得することになります。
そのため本条では、売主に対して登記手続きに必要な書類を提出する義務を課し、買主が円滑に移転登記を行えるように定めています。なお、登記申請自体は通常、買主側が司法書士を通じて行うのが一般的です。
契約書解説:第11条 瑕疵担保責任(契約不適合責任)について
令和2年の民法改正により、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」という概念に統一されました。これにより、売買の目的物が契約内容に適合していない場合、買主は「修補請求」「代金減額請求」「損害賠償請求」「契約解除」など、複数の救済手段を行使できるようになりました。
ただし、売主が個人であり、買主がプロでない一般消費者である場合には、契約のバランスを取るために「責任を負わない旨の特約」を設けることも認められています(ただし、悪意・重過失がある場合は無効)。
本条では、売主が責任を負う期間を「引渡し日から○ヶ月以内」と明記し、それ以降の不具合については免責とすることで、責任の範囲を明確化しています。中古物件の場合、このような期限設定は実務上不可欠です。
契約書解説:第12条 売主の表明および保証について
この条項は、売主が物件に関する事実関係について虚偽がないことを「表明し、保証する」ものです。たとえば以下のような項目が該当します:
- 登記名義が売主本人であること
- 抵当権などの担保権が付いていないこと(または引渡しまでに抹消すること)
- 境界に争いがないこと
- 他人の権利が及んでいないこと(賃借権、使用貸借など)
このような「表明保証」は、後のトラブルを防止するために極めて重要です。万一、売主の保証内容に虚偽があった場合、買主は契約解除や損害賠償を請求できる余地が生まれます。
契約書解説:第13条 引渡し前の管理義務および危険負担について
本条では、主に以下の2つの重要な事項が定められています:
- ❶ 売主の引渡し前の管理義務
- ❷ 引渡し前に目的物が滅失・毀損した場合の危険負担の帰属(リスクの所在)
❶ 管理義務について
売買契約締結後、引渡し前までの間に、対象物件(土地や建物)に関して損傷や状態の悪化が起こる可能性があります。たとえば:
- 空き家の屋根瓦が落ちる
- 雑草が伸びて近隣に迷惑をかける
- 無断駐車や不法投棄がされる
- 放火や不審火のリスクがある
このようなリスクに備えるため、売主には「善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)」が課されます(民法第400条)。つまり、引渡しまでの間、対象物件が通常の状態で維持されるように売主が適切に管理しなければならない、という義務です。
この管理義務に違反したことで目的物が損なわれたり、買主に損害が生じたりした場合、売主には契約不適合責任または不法行為責任が問われる可能性があります。
❷ 危険負担について
「危険負担(きけんふたん)」とは、契約の目的物が、契約履行の前に不可抗力(天災、火災など)によって滅失・毀損した場合に、売主と買主のどちらがその損失を負担するか、という問題です。
民法上の原則(改正民法第536条)
2020年の民法改正により、危険負担に関するルールが明確化されました。
- 第1項:債権者(買主)の責めに帰することができない事由によって、債務の履行(引渡し)が不能となった場合には、売主はその債務(引渡し義務)を免れます。
- 第2項:ただし、履行不能になった部分について、買主は代金の支払いを拒むことができる。
簡単に言えば、「目的物が引渡し前に不可抗力でダメになった場合、売主は引渡し義務を免れ、買主も代金を支払う義務はなくなる」というのが基本ルールです。
売主と買主の合意による変更(特約)
しかし、当事者が危険負担のリスクをどちらが負うかについて特約を設けることは可能です。たとえば:
- 「引渡し前であっても、危険は買主に移転する」
- 「引渡しまでは売主が危険を負担する」
といった内容を契約書に明記すれば、民法の原則とは異なる運用が可能になります。
実務上の位置づけ
不動産売買契約では、通常、「引渡し日までは売主がリスクを負担する(危険は売主にある)」という立場を取ることが多く、本条でもその旨を明確に記載しています。
このように定めておくことで、たとえば以下のようなケースでも当事者の責任関係が明確になります:
- 引渡し前に台風で屋根が飛んだ → 売主が修復または損害賠償の対象
- 引渡し後に同様の事故が発生 → 買主のリスク(通常の所有者リスク)
なお、火災や自然災害などに備えて、売主が引渡し日まで火災保険等を継続することを推奨する場合もあります。
【結論】
第13条は、「売主の管理義務」と「危険の所在(誰が損失を負担するか)」を明確にする条項です。明確な定めがあることで、引渡しまでの期間中に起こり得る予期せぬトラブルについても、事前に責任関係が整理され、契約の安定性が確保されます。
【契約書全体のまとめ】
この不動産売買契約書は、以下のような構成と目的を持って作成されています:
1. 【基本情報の整理】
第1条から第3条までは、契約の基本的な構造(売買物件、売買代金、支払条件)を明確にしています。これにより、当事者間の認識違いを防ぎ、契約の出発点を共有できます。
2. 【履行の手続と方法】
第4条から第10条では、売主・買主がどのように契約を履行するか(代金の支払方法、所有権の移転、引渡しの方法や登記手続)について具体的に定めています。履行の段取りが明確であるほど、スムーズな取引が期待できます。
3. 【リスク管理と責任分担】
第11条から第13条では、「契約不適合責任」「表明保証」「管理義務と危険負担」など、主にトラブル時の責任分担を明確にしています。これらは買主保護だけでなく、売主にとっても過剰な責任を回避するために重要な要素です。
4. 【全体としての特徴】
この契約書は、実務に即したバランス感覚を持ちながら、民法改正後の法的要件も適切に織り込んだ内容になっています。また、農地・古家付き土地など地方の実務における個別事情にも対応しやすい設計にしております。
まとめ
契約書は形式や記載内容に不備があると、後々大きなトラブルに発展するリスクがあります。今回ご紹介した内容を理解し、適切な契約書の作成を心がけましょう。
亀田行政書士事務所では、売買契約書・請負契約書・業務委託契約書・賃貸借契約書など各種契約書の作成やチェック、電子契約への対応、印紙税対策など幅広くサポートしています。
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