信託の終了について |土日夜相談可能 亀田行政書士事務所

信託契約において「終了事由」が発生したとしても、それだけで信託が即座に消滅するわけではありません。
信託が終了した後は、「清算手続き」が完了するまで信託は存続し続けるという点が非常に重要です。

■ 信託終了後の扱いについて

信託が終了した時点から、次のような取扱いに移行します。

役割終了後の地位
受託者清算受託者として、信託財産の生産業務を行います。
受益者帰属権利者となり、信託財産の最終的な帰属先となります。
委託者法定相続人がその地位を引き継ぐことになります。
信託監督人・受益者代理人清算が完了するまでそのままの役割を維持します。

つまり、信託の終了後は「清算期間」に入り、財産の処分・債務整理・帰属権利者への引渡しといった一連の手続が完了するまで、信託関係は継続しているのです。

■ 信託法上の信託終了事由(信託法 第163条)

信託法では、以下のような場合に信託が終了すると規定されています。

  1. 信託の目的を達成した時、または達成不可能になった時(信託法163条1号)
  2. 受託者がすべての受益権を固有財産として1年以上保有し続けた場合(信託法163条2号)
  3. 受託者が不在の状態が1年間継続した場合(信託法163条3号)
  4. 信託財産が管理・費用に不足し、信託の継続が不可能と判断された場合(信託法163条4号)
  5. 信託の併合がなされた場合(信託法163条5号)
  6. 特別の事情や公益上の理由で、裁判所が信託の終了を命じた場合(信託法163条6号)
  7. 信託財産について破産手続きが開始された場合(信託法163条7号)
  8. 委託者が破産・再生・構成手続開始の決定を受けたことにより、信託契約が解除された場合(信託法163条8号)
  9. 信託行為で定めた特定の事由が生じた場合(例:委託者や親の死亡など)(信託法163条9号)

■ 受益者死亡に伴う信託終了の特則(信託法 第91条)

以下のような受益権の継承を前提とした信託においては、特別な終了タイミングが設けられています。

  • 信託設定時に「受益者が死亡した場合、別の人が受益権を取得する」と定めた場合、
    その信託設定日から30年が経過した後に、現に存在する受益者が受益権を取得すると、
    → その者が死亡または受益権を喪失するまで、信託は効力を持ち続ける(信託法91条)。

■ 委託者・受益者の合意による信託終了(信託法 第164条)

信託は、委託者と受益者の合意により終了させることも可能です。

  • 【信託法164条1項】により、合意があれば終了可能
  • ただし、【信託契約で別段の定め】をすることも可能(信託法164条3項)

注意点として、信託契約に何も定めがない場合、受益者の一存で信託を終了させられるリスクがあります。
そのため、実務では「受託者と受益者双方の合意による終了」と明記しておくことが推奨されます。

■ 清算事務の具体的内容

信託が終了した場合、受託者(この段階では「清算受託者」となります)は、信託財産に関する清算手続きを行う義務を負います。以下に、実務上重要となる清算事務の流れについて詳述します。

1. 未払い債権の回収

信託終了時点で未回収の債権(例:未収の賃料など)が存在する場合、清算受託者はそれらの債権を回収する努力を行います。

ただし、債権の内容や状況によっては、回収に相応の時間がかかることもあります。そのような場合には、信託終了後も債権としての形を維持したまま、帰属権利者に債権譲渡を行うこともあります。これにより、信託の清算を円滑に進めることが可能になります。

2. 未払い債務・諸費用の弁済

信託終了時に未払いの債務や信託事務に伴う諸費用がある場合には、信託財産からそれらを弁済する必要があります。

信託法第181条では、「信託財産の給付は、信託債務が弁済された後でなければならない」と明記されており、弁済前に信託財産を帰属権利者に引き渡すことはできません。

もっとも、実務上、たとえば抵当権が設定された不動産から発生する賃料で債務の支払いをしていたようなケースでは、その不動産に係る債務の弁済が困難な場合もあります。こうした場合、債務者の承諾を得た上で、帰属権利者に債務を引き継がせる(債務引受)という方法が採られます。もちろんこの場合も、債権者との合意や同意が必要です。

3. 帰属権利者に対する残余財産の給付

未払い債権の回収と債務の弁済が完了した後、信託財産のうち残った財産(残余財産)を、信託契約で定められた帰属権利者または受益者に給付します。

残余財産の給付対象には、金銭および不動産が含まれます。ただし、たとえ信託契約で金銭の帰属権利者が定められていたとしても、帰属権利者が自ら信託用口座を解約し、金銭を引き出すことはできません

信託金銭については、清算受託者が信託専用の管理口座を解約した上で、その残高を帰属権利者に対して給付するという手続きが必要です。

また、信託不動産については、帰属権利者への名義変更登記および信託の抹消登記を清算受託者が行います。

4. 清算事務に関する計算書類の作成・承認

清算受託者は、清算に関する清算事務に関する計算書類(信託貸借対照表添付)を作成し、これを信託終了時点における受益者および帰属権利者の承認を得なければなりません(信託法第184条)。

なお、信託契約に基づき受益者代理人が選任されている場合は、その代理人から承認を得ることができます。重要な点として、信託終了事由が発生した後も、受益者代理人は退任せず、引き続きその役割を果たします。

生産受託者が最終計算の承認を求めたにもかかわらず、1ヶ月以内に承認も異議もなされない場合には、承認されたものとみなされるとされています(みなし承認)。

ただし、異議があった場合は、信託の最終的な終了(信託財産の引渡し・抹消登記等)を行うことはできません。

参考 紛争対策としての受益者代理人の活用

実務上、信託を「相続トラブル防止」など紛争対策として活用する場面も増えてきています。そのような場合においては、信託終了後に帰属権利者全員の同意が得られないことが、清算手続きや信託終了の障害となるケースもあります。

そこで、受益者代理人をあらかじめ設定しておくことで、信託の清算や終了に関する意思決定を一元化し、スムーズな処理を可能にすることができます。

まとめ:信託終了後も続く「清算手続き」の重要性

家族信託は、「終了事由」が発生した時点で効力を失うわけではなく、その後に続く清算手続きが完了するまで存続し続けるという点が極めて重要です。信託終了後には、信託財産の債権回収、債務弁済、残余財産の給付、計算書類の作成といった一連の業務が発生し、これらを適切に行うことで、信託は初めて完全に終了します。

特に、信託契約における清算方法や帰属権利者の定め、受益者代理人の設置といった事前設計の有無が、清算のスムーズさや相続人間の紛争リスクに大きく影響します。

そのため、家族信託を設計する段階から、「信託終了後の清算処理」までを見据えた契約内容と体制を構築しておくことが、本人や家族の安心と実効性のある資産承継の実現につながります。信託の設計から終了後の手続きに至るまで、専門家の支援を受けながら一貫して準備しておくことが、後のトラブルを回避し、信託制度を最大限に活用する鍵となるでしょう。

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