【家族信託契約書作成シリーズ③】|土日夜相談可能 亀田行政書士事務所

信託法の原則規定と「別段の定め」について

家族信託の契約設計においては、「信託法」の原則規定に則ることが基本となります。
ただし、信託法は2007年(平成19年)に施行された比較的新しい法律であり、特に家族信託の実務においては、法の規定だけではカバーしきれない未解決の論点や不明確な点が多く存在します。

そのため、契約書作成においては、信託法の規定を理解したうえで「別段の定め(特約)」をどう活用するかが極めて重要な設計判断となります。

1. 「別段の定め」には2種類ある

信託契約における「別段の定め」は、以下の2つの性質に分類されます。

① 信託法の原則規定を排除する特約

→ 原則規定の適用を除外し、契約書で定めた内容が優先される。

② 信託法の原則規定と併存する特約

→ 原則規定も有効なまま、契約書上で追加的な変更・補足が行われる。

この分類を意識せずに契約書を作成してしまうと、後に当事者間での解釈が分かれ、紛争の火種となる可能性があります。

2. 信託法における「別段の定め」の具体例

以下は代表的な条文の例です。

◆ 信託法第149条(信託の変更)

原則:信託の変更は、委託者・受託者・受益者の三者の合意により行う(第1項)。
ただし、第4項では「信託行為に別段の定めがあるときは、その定めによる」とされており、契約書で異なる定めがある場合にはそちらが優先されます。

◆ 信託法第164条(信託の終了)

原則:委託者及び受益者の合意により、いつでも信託を終了できる(第1項)。
しかし第3項において、「信託行為に別段の定めがあるときは、その定めによる」と明記されています。

これらの条文からわかるように、信託法では「原則」としてのルールが定められつつも、契約上の別段の定めがあればそちらが優先されるとする柔軟な設計がなされています。

3. 東京地裁 平成30年10月23日判決に見る「別段の定め」の解釈例

【事案の概要】

  • 委託者兼受益者である父と、受託者である子の間で信託契約(以下「本件信託契約」)を締結。
  • 父は後に「信託契約は無効である」と主張し、詐欺・錯誤・無効または意思表示に基づく信託の終了を申し立てた。
  • 本件信託契約では、「受益者は受託者との合意により、信託の内容を変更し、または信託を一部解除・終了できる」とする条項が明記されていた。

【争点】

信託法第164条では、「委託者および受益者の合意により信託を終了できる」と定められているが、本件のように契約書上で「受益者と受託者の合意による信託終了」が定められている場合、

  • 原則規定(委託者・受益者の合意)が適用されるのか
  • それとも
  • 契約上の定め(受益者と受託者の合意)が優先されるのか

が争点となった。

【判決の要旨(東京地裁 平成30年10月23日)】

  • 信託法第164条第1項により、通常であれば委託者と受益者の合意により信託を終了できる。
  • しかし、同条第3項において「別段の定めがあるときはその定めによる」としているため、本件信託契約の条項は優先的に適用される
  • よって、信託契約に「受益者と受託者の合意により信託を終了できる」と明記されている以上、父一人(=委託者兼受益者)の意思のみでの終了は認められないと判断された。

この判決は、「別段の定め」が信託法の原則規定を排除するものであるという法的判断を示した点で、非常に重要です。

4. 現段階の判例的評価と契約作成上の留意点

この判決は地方裁判所レベル(第一審)の判断であるため、今後控訴審・最高裁での結論により覆る可能性もあります。
したがって、信託契約を設計する際には以下の点を十分に踏まえる必要があります

● 契約書の文言は誰が見ても「原則を排除するか併存するか」が明確になるように作成する

  • 「信託法第〇条にかかわらず~」「信託法第〇条を適用しない」など、明示的な文言を用いる。
  • 解釈の余地を残さない記述とすることで、紛争防止に繋がります

● 状況に応じて、受託者の関与の有無や契約変更・終了の条件を丁寧に設計する

  • 委託者の高齢化や財産状況の変化に備え、柔軟に契約内容を変更できるようにしておくことも一案です。
  • 反対に、第三者の関与が必要な仕組みにしておくことで、契約の乱用や不意の終了を防ぐことも可能です。

● 現場では「信託契約の文言」だけでなく「事実関係」も重要

  • 裁判では、契約条項の記載内容に加えて、当事者の家族関係や信頼関係、契約に至る経緯などの背景事情が重視されることがあります。
  • そのため、同じ契約条項でも異なる判断がされる可能性があるという実務上のリスクにも留意が必要です。

5. まとめ

信託契約の設計においては、「信託法の原則規定」だけでなく、それを明確に補完または排除する「別段の定め」をどう活用するかが大きなポイントです。

  • 解釈が分かれるような条項は避け、誰が見ても明確な条文とすること
  • 必要に応じて、別段の定めの有無・趣旨をお客様に丁寧に説明すること
  • 家族信託の実務は柔軟性が求められる反面、リスク管理と予防的契約設計が非常に重要

以上の点を踏まえながら、信託契約を進めていくことが極めて重要です。

お待たせしました。次回は「事例をもとに信託契約書の作成」をしていきます。お楽しみに

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